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Media Creation Curriculum in the AI Era #7 — カリキュラム全体検討

Updated: 2026-05*

1. はじめに

本稿は、私の授業構想に関するClaude AIとの問答である。「AI時代のメディア制作カリキュラム」シリーズの第7回として、これまでの6本のEssayで整理してきた手法群と思想を踏まえ、担当する4授業のカリキュラム全体を検討する。

シリーズ第1回から第6回までは、個別の手法・ツール・思想を独立した論点として掘り下げてきた。本稿はそれらを「実際の授業科目」という器に流し込み、年次ごとの接続を設計する段階に入る。対象とするのは以下の4授業である。

・学部2年「映像基礎」:90分×15回 ・学部3年前期「映像演習I+映像実習I」:180分×15回(90分×2の連続開講) ・学部3年後期「映像演習II+映像実習II」:180分×15回(90分×2の連続開講) ・大学院1年「キネマトグラフィックス特論」

本稿の出力形態としては、4授業の全体マップを示した上で、本シリーズの主軸である学部3年I・IIの15回詳細カリキュラム案を提示する形式を採る。学部2年は現行授業が成功しているためマイナーアップデートの方針記述に留め、大学院については他大学院から進学する受講者が多い実情を踏まえ、Art Paperサーベイと個人修士研究を中心に据えた更新方針を示す。

1.1 参考サイト

Media Creation Curriculum in the AI Era #1 — Andrew Price氏の議論を起点にMedia Creation Curriculum in the AI Era #2 — ComfyUIベースのカリキュラムMedia Creation Curriculum in the AI Era #3 — マルチツール短編制作の15回設計Media Creation Curriculum in the AI Era #4 — TouchDesignerによるメディアプログラミングMedia Creation Curriculum in the AI Era #5 — TouchDesignerによる実空間実装ガイドMedia Creation Curriculum in the AI Era #6 — 撮影手法

1.2 本稿で扱う内容

・シリーズ#1〜#6で整理した手法群の俯瞰 ・担当4授業の縦軸(学年)×横軸(技法系統)でのマッピング ・学部2年「映像基礎」の現状評価とマイナーアップデート方針 ・学部3年前期「映像演習I+映像実習I」(180分×15回)の詳細カリキュラム案 ・学部3年後期「映像演習II+映像実習II」(180分×15回)の詳細カリキュラム案 ・大学院「キネマトグラフィックス特論」の更新方針 ・各授業の評価設計と運用上の留意点


2. シリーズ#1〜#6の俯瞰

本シリーズは6本のEssayを通じて、AI時代の映像制作教育に必要な要素を順に検討してきた。各Essayの位置づけを整理し、それらが「思想軸」「時間制作型」「実時間生成型」という三つのレイヤーに対応していることを確認する。

2.1 三つのレイヤー

シリーズの内容を構造的に整理すると、以下の三層に分かれる。

・思想軸(#1):AI時代における映像制作の意味、Labor vs. judgmentの転換、ハイ・エージェンシーな作家像、AIの制御装置としての3D ・時間制作型(#2、#3、#6):プロンプトもしくはカメラを通じて、時間軸を持つ映像作品を一旦完成させてから上映する系統 ・実時間生成型(#4、#5):ノードベース環境と物理空間を組み合わせ、映像が「いま・ここ」で立ち上がる系統

「時間制作型」と「実時間生成型」の対比は、出力物の時間的性質に基づく分類である。時間制作型は「制作時点で時間が確定する」のに対し、実時間生成型は「上演時点で時間が生成される」。前者は再生される作品であり、後者は起動される作品である。

2.2 各Essayの位置づけ

各Essayの主題と本稿との関係を整理する。

#1 Andrew Price氏の議論を起点に

シリーズ全体の思想的出発点となるEssayである。Blender Guruの Andrew Price 氏が示した「3DCGはモデリング技能としては縮小するが、AIの制御装置として残る」「残るのは判断・物語・世界観である」という論点を整理し、映像演習・実習I・IIの刷新方針として「判断力の演習として再設計する」という方向を提示した。本稿のすべての授業設計はこの思想を背景に持つ。

#2 ComfyUIベースのカリキュラム

180分×15回をComfyCloud単独で構成する場合の検討記事である。ノードベース環境の学習曲線、Runway型ツールとの違い、3フェーズ構成(基礎・制御系・自分流ワークフロー)を整理した。本稿では大学院「キネマトグラフィックス特論」の動画生成深掘り部分の素材として参照する。

#3 マルチツール短編制作の15回設計

学部3年前期に最も近い射程の検討である。AI生成ツール群(Higgsfield、fal.ai、Nano Banana 等)を組み合わせた15〜30秒短編制作の15回カリキュラムを設計した。プリ/プロダクション/ポストの3フェーズと、デザインシート方式によるキャラクター・空間の一貫性管理を軸に据えている。本稿の学部3年前期カリキュラム(5章)はこのEssayを主軸に再構成する。

#4 TouchDesignerによるメディアプログラミング

実時間生成型の主軸となるEssayである。180分×15回をTouchDesigner(以下TD)の習得と作品制作に充てる4フェーズ構成(基礎・画面内表現・身体/空間・AI連携と統合)を提示した。本稿の学部3年後期カリキュラム(6章)はこのEssayを主軸に再構成する。

#5 TouchDesignerによる実空間実装ガイド

#4を補完する位置づけで、撮影スタジオを実空間上演の会場として活用する場合の実装ガイドである。マルチプロジェクタ配置、DMX照明(Art-Net経由)、立体プリミティブへのマッピング、Suno等のAI音楽との同期、立体音響構成について技術的な詳細を扱った。本稿の学部3年後期カリキュラムでは、Phase Cの後半と最終課題で本Essayの内容を直接活用する。

#6 撮影手法

時間制作型のもう一つの極として、カメラを物理世界に向ける行為の意義と手法を整理したEssayである。構成的撮影(futa.729s氏、Blake Ridder氏、映画的カメラワーク理論)、特殊撮影(マクロ・顕微鏡、Edelkrone、Tilt-Shift/Small Planet、長時間露光・光跡)、時間操作(ハイフレーム撮影、Premiere/After Effects/Twixtor)を扱った。本稿の学部3年前期カリキュラムでは、#3の AI 生成と並ぶ柱として撮影手法を組み込む。

2.3 シリーズの欠落部分と本稿の役割

シリーズ#1〜#6では、個別の手法群を順に掘り下げてきたが、それらを「実際の授業科目」に流し込む作業は意図的に保留してきた。本稿はその統合のフェーズに入る。

具体的には以下の問いに答える必要がある。

・縦の接続:学部2年→学部3年→大学院という学年進行の中で、どの手法をどの段階で経験させるか ・横の選択:学部3年前期と後期で扱う系統をどう振り分けるか ・優先度:シリーズで掘り下げた素材のうち、限られた授業時間に何を入れ何を外すか ・運用:個別授業の独立性を保ちつつ、シリーズ全体としての一貫性をどう確保するか

これらの問いに対する答えを、3章以降で順に提示していく。


3. 担当4授業の全体マップ

3.1 縦軸と横軸

担当4授業を、縦軸(学年・段階)と横軸(技法系統)で位置づけると次のようなマトリクスになる。

・学部2年「映像基礎」:集団・スマホ中心・グループ作品 — 集団的基盤 ・学部3年前期「映像演習I+実習I」:個人/小グループ・時間制作型 — スクリーンで完結する作品 ・学部3年後期「映像演習II+実習II」:個人/小グループ・実時間生成型 — 実空間で立ち上がる作品 ・大学院「キネマトグラフィックス特論」:研究との接続・自走的探究 — 自分の問いから出発する作品

学年が進むにつれて、制作主体が集団から個人に向かい、出力物の射程が「画面の中で完結する映像」から「実空間で立ち上がる映像」へ、さらに「研究の問いと結びついた映像」へと拡張していく構造である。

3.2 系統の配分

シリーズで整理した三つのレイヤー(思想軸、時間制作型、実時間生成型)を、4授業にどう配分するかを整理する。

・思想軸(#1):すべての授業の背景として共有する。Labor vs. judgmentのフレーム、ハイ・エージェンシーな作家像、判断力としての制作という視点を、ガイダンス回で繰り返し提示する ・時間制作型:学部2年(基礎)→ 学部3年前期(深掘り)の縦の流れで扱う。学部3年前期では#3のAI生成と#6の撮影手法の双方を統合する ・実時間生成型:学部3年後期で本格的に扱う。#4のTouchDesignerと#5の実空間実装の双方を統合する ・大学院:研究テーマとの接続を主軸に、シリーズ全体の知見から各自が選択して深掘りする

3.3 学年間の接続

各授業間の縦の接続を、何が共通し、何が変化するかという観点で整理する。

学部2年から学部3年前期への接続

学部2年で「グループ・スマホ・映像基礎」を経験した学生が、学部3年前期で「個人/小グループ・AI生成+特殊撮影」に進む。共通するのは「物語を構想し、映像として実現する」というプロセス全体である。変化するのは、扱える技法の幅と要求される判断の解像度である。

・共通:プリ/プロダクション/ポストの3フェーズ構造、講評文化、グループ/個人での制作経験 ・変化:制作機材の専門性(スマホ+DJI Osmo Mobile → 専用機材+AIツール)、扱える表現の幅(基本撮影 → AI生成・特殊撮影・時間操作の併用)、要求される判断(モチベーション中心 → 判断力中心)

学部3年前期から後期への接続

前期で「時間制作型」を経験した学生が、後期で「実時間生成型」に進む。映像が確定したオブジェクトから、実時間で立ち上がるイベントへと変容する。

・共通:個人/小グループでの制作、判断力中心の設計、参照作家からの学び ・変化:出力物の時間的性質(完成された映像 → 起動される映像)、扱うツール群(編集ソフト+AI生成 → TouchDesigner)、発表形式(上映 → 実空間上演)

学部3年から大学院への接続

学部で技法群を一通り経験した学生が、大学院で研究テーマと結びつけて深掘りする。技法は手段になり、自分の問いが主役になる。

・共通:批評的視点、技法選択の判断 ・変化:制作の起点(与えられた課題 → 自分の問い)、参照軸(参照作家 → 学術論文・Art Paper)、最終出力(作品 → 研究と接続した作品もしくはビデオプロトタイピング)

3.4 配分マトリクス

シリーズの主要素材を4授業に配分すると、次の対応関係が成立する。

・学部2年「映像基礎」:#1の思想(軽く)、#6の入門(スマホ+DJI Osmo Mobileでの基礎撮影、スローモーション) ・学部3年前期「映像演習I+実習I」:#1の思想(深く)、#3のマルチツール短編制作、#6の撮影手法(構成的・特殊・時間操作) ・学部3年後期「映像演習II+実習II」:#4のTouchDesignerメディアプログラミング、#5の実空間実装ガイド ・大学院「キネマトグラフィックス特論」:Art Paperサーベイ、#2のComfyUI深掘り、#4のTouchDesigner応用、研究テーマ接続

シリーズで整備した6本のEssayが、4授業のカリキュラム素材として有機的に対応する設計になっている。本稿の5章以降では、この配分マトリクスを具体的な15回構成に展開する。


4. 学部2年「映像基礎」:現状の維持と微調整

学部2年の「映像基礎」は、現状で十分に機能している授業である。本章では現状の評価と、シリーズ#1〜#6の知見を踏まえた限定的なアップデート方針を述べる。詳細な15回カリキュラムの再設計は行わない。

4.1 現状の構成

本授業は90分×15回で構成され、以下の概要を持つ。

・ガイダンス:1回 ・Premiere Pro演習:4回 ・企画から撮影、編集:8回 ・最終回上映会と講評:1回

機材構成として、基本はスマホを使用し、10グループ全てにDJI Osmo Mobile(ジンバル)を配布する。撮影テクニックの扱いは、スローモーションとカラーグレーディングを共通の学習対象とし、それ以上は個々人のスキルに任せている。最近はBlenderやAfter Effectsを高校までに習得している学生も増えており、グループの中で技術担当が自然発生する傾向にある。

4.2 現状の評価

本授業は次の理由で成功している。

・グループワークによる映像制作の特性に合致した設計である:映像は一人では作れない、というメディア特性をカリキュラム自体が前提としている ・作品制作のモチベーションが高い:他のグループメンバーへの責任感、上映会でのアウトプット、講評での評価が複合的に動機づけとして働く ・成果物の品質が高い:20年前の卒業制作レベルの作品が毎年生まれている。これは機材の民主化と、グループの強みと、適切な目標設定が組み合わさった結果である ・専門技術への接続経路を持つ:高校までにBlenderやAfter Effectsを習得した学生が、その技能を活かして作品制作に貢献できる構造になっている

4.3 マイナーアップデート方針

シリーズ#1〜#6の知見を踏まえ、授業コンセプトは変更せず、以下の微調整候補を整理する。各項目は採用必須ではなく、実際の運用において講師が選択的に取り入れる候補として位置づける。授業時間が限られている以上、すべてを盛り込むより、優先度を判断して2〜3項目を試験的に導入する運用が現実的である。

4.3.1 ガイダンス回への思想軸の追加(推奨度:高)

ガイダンス回(第1回)で、シリーズ#1で整理した「AI時代の映像制作におけるLabor vs. judgmentの転換」「個人・小規模チームへの主役交代」というフレームを5〜10分程度共有する選択肢である。学部3年・大学院での学習に向けた予告編としても機能する。

メッセージの要点は次のとおりである。

・映像制作の単純労働的な部分はAIが担い、人間に残るのは判断・物語・世界観の選択である ・グループ制作の経験は、AI時代において一層重要になる:自分一人ではできない判断の連鎖こそが作品を作る ・本授業は判断の練習であり、20年前の卒業制作レベルが達成できる時代になった意味を考えながら制作してほしい

実装コストが低く(既存ガイダンスへの5〜10分の追加)、効果として学年間の連続性を演出できるため、優先度は高い。一方、思想的なメッセージは学部2年の段階では消化されにくい場合もあり、その場合は次年度以降で扱いを調整する余地がある。

4.3.2 撮影手法の最低限の言及(推奨度:中)

シリーズ#6で扱った撮影手法のうち、スマホ+DJI Osmo Mobileで実現可能な範囲を、Premiere Pro演習または企画フェーズの初期に短時間で紹介する選択肢である。

・スローモーション:iPhone Pro系の1080p@240fps/4K@120fps撮影、DJI Osmo Mobileでのジンバル安定化との組み合わせ ・構成的撮影:futa.729s氏のスマホ+頭脳プレー型カメラワーク事例(10〜15分の事例紹介で十分) ・カメラワークの基本記号:Pan/Tilt/Push-in/Pull-out/Tracking等の基本動作と感情との対応

「技術解説」というより「視野の拡張」として配置する。詳細な実装は学部3年前期に回し、学部2年では「カメラワークには言語がある」という認識を持たせる程度で十分である。

導入する場合は3項目すべてではなく、たとえばスローモーションと構成的撮影の2項目に絞る、あるいはカメラワーク基本記号だけにする、といった選択肢がある。Premiere演習4回のうち1回の冒頭15分程度を割り当てる運用が現実的である。

4.3.3 高校既習者向けの発展枠の明示(推奨度:中)

BlenderやAfter Effectsを既に習得している学生に対して、グループ内での技術担当としての役割と、追加学習のリファレンスを明示する選択肢である。授業時間内で個別指導は行わないが、以下を案内する。

・グループ内での役割例:3D要素の追加、VFX、タイトル・テロップ、複雑なトランジション ・参照教材:lecture.nakayasu.comの該当ページ、学部3年前期での扱い予告

導入形態としては、(A)ガイダンス回で全員に案内する、(B)グループ編成後に該当者にのみ個別案内する、(C)クラス全体に常設の参考資料リストとして配布する、の3パターンがある。既習者の人数と分布に応じて選択する。

4.3.4 AI生成ツールの扱い(推奨度:判断が必要)

学部2年時点でのAI生成ツールの導入には、複数の選択肢がある。本項目は他項目と異なり、年度ごとの判断を要する。

選択肢A:本格導入を行わない(現状維持)。理由は、技術的な敷居の問題ではなく、「グループ制作の中で個人がAIで一気に何かを生成する」という形が、グループの協働文化を破壊する可能性があるため。グループ全員の合意がある場合の補助的利用(イメージスケッチ、ストーリーボード補助、限定的なテクスチャ生成等)のみ認める。

選択肢B:限定的に導入する。プリプロダクション・フェーズに限定し、絵コンテ作成補助・参照画像生成・ロケハン補助等の用途で全グループに使用を推奨する。プロダクション・フェーズ(撮影・編集)での生成素材の使用は禁止する。

選択肢C:自由に導入する。グループの判断として、AI生成素材を作品に組み込むことを認める。ただし最終回の上映会で「AIをどう使ったか/使わなかったか」を必ず含めて発表する。

現時点での推奨は選択肢AまたはBである。学部3年前期でAI生成を本格的に扱う前段階として、「グループの判断としてのAI利用」という観点を経験させる意義はあるため、選択肢Bを試験的に導入し、グループの協働文化への影響を観察する運用も検討できる。

4.4 まとめ

学部2年「映像基礎」は、現状の構成を維持することを基本とする。シリーズ#1〜#6の知見は、上記4項目のような選択肢として整理されるが、すべてを一度に導入する必要はない。「うまくいっている授業は壊さない」を基本方針とし、年度ごとに1〜2項目を試験的に取り入れ、効果を観察しながら定着させる運用が望ましい。次年度以降の判断材料として、本章の整理を残しておく。


5. 学部3年前期「映像演習I+映像実習I」:時間制作型の探究

学部3年前期は、本シリーズで掘り下げた「時間制作型」の手法群を15回180分で探究する科目として位置づける。AI生成(シリーズ#3)と撮影手法(シリーズ#6)を排他的に扱わず、両者を併用した短編作品の制作を最終課題に据える。

5.1 位置づけと設計方針

5.1.1 「時間制作型」を担う科目としての設計

時間制作型とは、出力物が制作時点で時間軸も含めて確定し、再生・上映可能な形で完成する映像作品である。学部3年前期は、この系統の制作プロセスを一通り経験させ、AI生成と撮影の双方の手段を比較・選択できる判断力を養うことを目的とする。

シリーズ#3で示した「マルチツール短編制作の15回設計」と、シリーズ#6で扱った「撮影手法」を統合する設計を採る。#3はAI生成を中心としたパイプラインを描き、#6は撮影による物質性の捕捉を扱った。両者は対立するアプローチではなく、現代の映像制作において相補的に使われる手段である。学部3年前期では、両者を併用した短編制作を通じて、各手法の守備範囲と組み合わせの妙を経験させる。

5.1.2 学部2年からの接続

学部2年「映像基礎」では、グループ制作によるスマホ+DJI Osmo Mobile中心の制作経験を持つ学生が対象である。学部3年前期では以下の点で拡張する。

・制作主体:グループ制作から個人または小グループ(2〜3名)制作に移行 ・機材:スマホ+ジンバルから、ミラーレスカメラ、特殊撮影機材、AI生成ツールに拡張 ・要求される判断:モチベーション中心から、判断の解像度・技術的妥当性・コンセプトの一貫性へ ・出力物:3〜5分程度のグループ作品から、15〜60秒の高密度短編へ

最終出力の尺を意図的に短くする理由は、判断の密度を上げるためである。15〜60秒という制約の中で、AI生成と撮影を組み合わせ、毎ショット・毎カットの選択に意味を持たせる練習に集中させる。

5.1.3 演習Iと実習Iの役割分担

180分は「演習I(90分)」と「実習I(90分)」の連続開講で構成される。形式上は別科目だが、運用としては一体で扱う。便宜上、前半90分を「演習I」(講義・デモ・参照作品上映)、後半90分を「実習I」(ハンズオン・制作)と位置づけるが、回によっては比重を調整する。

5.1.4 評価設計

最終課題(15〜60秒の短編作品)を中心に、以下の3軸で評価する。

・コンセプト:題材の選択、物語またはコンセプトの明確さ、自分の問題意識との接続 ・一貫性:キャラクター・空間・トーンの一貫した制御、AI生成と撮影の併用における整合 ・編集:尺の判断、リズム、音と映像の対応、最終的な完成度

途中過程としては、第7回(プリプロ完了)、第11回(プロダクション完了)、第14回(編集中間講評)でチェックポイントを置く。

5.2 15回構成の概要

15回を4フェーズに分割する。

・Phase A:基礎と思想(第1〜3回) ・Phase B:プリプロダクションと撮影基礎(第4〜7回) ・Phase C:プロダクション — AI生成と特殊撮影(第8〜11回) ・Phase D:ポストプロダクションと発表(第12〜15回)

各フェーズの目的は次のとおりである。

・Phase A:本科目の位置づけ、時間制作型の射程、AI生成と撮影の手段としての対比を理解する ・Phase B:脚本・構成・ショット設計・撮影基礎を経験する。最終課題のプリプロを並行して進める ・Phase C:AI生成パイプラインと特殊撮影・時間操作を順に経験し、最終課題のプロダクションを進める ・Phase D:編集・カラー・音を統合し、最終発表に至る

5.2.1 各回の標準ブロック構成

各回は次の4ブロックを基本とする。

・講義:30分(参照作品・原理・思想) ・デモ:30〜45分(講師による実演) ・ハンズオン:90〜105分(受講者による実装・制作) ・講評:15分(成果共有とフィードバック)

5.2.2 最終課題の並行制作

第4回以降の各回ハンズオンには、当日のテーマに関する基礎演習と、最終課題への適用作業を並行させる。具体的には、第4回〜第7回でプリプロを完成させ、第8回〜第11回でプロダクションを完成させ、第12回〜第14回でポストプロダクションを完成させる、という流れである。最終課題は第1回から始まる、というのが本設計の要である。

5.3 Phase A:基礎と思想(第1〜3回)

5.3.1 第1回 ガイダンス:AI時代の映像制作

本科目の位置づけと、AI時代における映像制作の現状を共有する。

・ねらい:本科目が「時間制作型」の系統を担うこと、AI生成と撮影の双方を扱うことを理解し、最終課題の射程を共有する ・講義:シリーズ#1のAndrew Price氏の論点(Labor vs. judgment、ハイ・エージェンシーな作家、AIの制御装置としての3D)を紹介。Kiyoshi Yamamoto氏の15秒短編事例($4.08/約1時間で制作)を上映し、現代の個人制作の到達点を示す ・デモ:講師による15秒の即興制作デモ(プロンプト→生成→簡易編集)と、講師自身が撮影した短編の上映で、両極の手段を提示 ・ハンズオン:受講者全員のアカウント整備(Higgsfield、fal.ai、Nano Banana、各自の編集ソフト)と、機材貸出の説明 ・講評:受講者の制作経験ヒアリング、希望する制作の方向性ヒアリング ・参考作品:futa.729s氏、aaa_tsushi氏、Blake Ridder氏

5.3.2 第2回 映像制作フロー総論

従来フローを学術的に整理し、AIフローと撮影フローとの構造的対応を明示する。

・ねらい:プリ/プロダクション/ポストの3フェーズ構造を理解し、各フェーズでAIと撮影がどう介入するかをマッピングできるようになる ・講義:従来の映画・アニメーション制作の3フェーズと、各フェーズにおけるAI/撮影の介入領域。arXiv 2504.08296の要約を補助資料として配布 ・デモ:従来作品(短編アニメまたは実写)の制作ドキュメンタリーを20〜30分視聴し、各工程を識別する ・ハンズオン:各自が好きな映像作品1本を選び、フェーズ分解レポートを作成。さらに「AIで置き換え可能な工程」「撮影で代替不可能な工程」を識別する練習 ・講評:分解結果を共有し、用語を統一する ・参考作品:シリーズ#1で言及した個人制作事例、シリーズ#3で言及したAI制作事例

5.3.3 第3回 ツールランドスケープと機材

2026年時点のAI映像ツール群と撮影機材群を分類し、それぞれの守備範囲を把握する。

・ねらい:使えるツール・機材を一覧した上で、最終課題で選択する判断軸を持つ ・講義:AI生成ツール群(text-to-image、image-to-video、Higgsfield Canvas、ComfyUI)と撮影機材群(スマホ、ミラーレス、ジンバル、Edelkrone、特殊レンズ)の整理。同一プロンプトを3モデルに投入した結果の比較 ・デモ:講師がHiggsfield、fal.ai、Nano Bananaの基本操作を順にデモ。続いてミラーレス、ジンバル、特殊レンズの基本操作をデモ ・ハンズオン:各自で同一プロンプトの比較実験を行い、ツール特性表を作成。撮影機材は希望者に実機を触らせる時間を確保 ・講評:モデル選択基準、機材選択基準を全体で共有 ・参考作品:シリーズ#3、シリーズ#6で扱った参照事例

5.4 Phase B:プリプロダクションと撮影基礎(第4〜7回)

5.4.1 第4回 脚本と15〜60秒構成

短尺映像のための脚本術とビート設計を習得する。最終課題のログラインを確定する。

・ねらい:短尺映像での3幕構成・5ショット構成の論理を理解し、最終課題の1行ログラインと骨子を作成する ・講義:3幕構成、起承転結、5ショット構成(Yamamoto事例の分析:設定・違和感/認識/異変/衝撃/真相)、TikTok時代の冒頭3秒設計 ・デモ:1行アイデアから5ショット構成までを口頭で組み立てるプロセスを実演 ・ハンズオン:各自で15〜60秒短編の1行ログラインと5〜8ショット構成を作成する。題材は自由 ・講評:構成のフィードバック、ログラインの修正 ・最終課題マイルストーン:ログラインと骨子の確定

5.4.2 第5回 ショットリストと映画的カメラワーク理論

ショットサイズ・アングル・カメラ動作を表形式で記述する技術と、映画的カメラワーク理論を習得する。

・ねらい:シリーズ#6で整理した映画的カメラワーク理論を理解し、最終課題のショットリストを作成する ・講義:ショットサイズ(XCU/CU/MS/WS/OTS等)とアングル(Eye-level/High/Low等)の基本記号と感情効果。カメラ動作(Pan/Tilt/Dolly/Push-in/Pull-out/Zoom/Dolly Zoom/Tracking/Arc/Boom/Handheld)の意味論。Hitchcock、Kubrick、Spielberg、Coppola、Nolanの作例 ・デモ:Yamamoto事例の5ショット構成をショットリスト形式で記述するプロセスを実演 ・ハンズオン:各自で最終課題のショットリストを作成。各ショットにサイズ・アングル・動作を割り当てる ・講評:ショットリストのフィードバック、感情と映像言語の対応について議論 ・最終課題マイルストーン:ショットリストの確定

5.4.3 第6回 構成的撮影演習(フィールド)

スマホとミラーレスで「頭脳プレー型カメラワーク」を実地に演習する。futa.729s氏的なアプローチを体験する。

・ねらい:撮影現場での「考える」工程の重要性を体感する。フレーミング・視線誘導・構成の論理を実地に試す ・講義:futa.729s氏のスマホ+頭脳プレーの方法論、Blake Ridder氏のシネマ的ナラティブ。撮影前準備としての「考える」工程 ・デモ:講師による即興のフィールド演習。同じ被写体を異なる構成で5パターン撮影する ・ハンズオン:屋外もしくは校内の特定場所で、各自が「同じ題材を5パターン異なる構成で撮影する」演習を行う。最終課題で使う素材を含めて撮影してよい ・講評:撮影素材を共有し、構成の差異から「同じ題材でも複数の解がある」ことを確認 ・参考):futa.729s氏SNS、Blake Ridder氏YouTube

5.4.4 第7回 デザインシート方式とビジュアル設計

シリーズ#3で扱ったデザインシート方式を導入し、キャラクター・空間・トーンを一貫管理する設計図を完成させる。

・ねらい:AI生成と撮影を併用する制作で、ビジュアルの一貫性を担保するためのデザインシートを完成させる ・講義:デザインシート方式の解説(キャラクターシート、空間シート、トーン&スタイルシート、リファレンス画像群)。Nano Banana、ComfyUIのキャラクター一貫性手法 ・デモ:Yamamoto事例のデザインシートを再構成する形でデモ ・ハンズオン:各自で最終課題のデザインシートを完成させる。AI生成パートと撮影パートで使う共通のビジュアル要素を整理 ・講評:プリプロ完了状態の個別レビュー。次回からのプロダクションへの準備を確認 ・最終課題マイルストーン:プリプロ完了(ログライン、ショットリスト、デザインシート)

5.4.5 第6回・第7回の順序に関する選択肢

第6回(構成的撮影演習)と第7回(デザインシート方式)の順序には、教育効果の観点で異なる選択肢がある。

順序案A(本稿の基本案):構成的撮影演習を先(第6回)、デザインシートを後(第7回)

・利点:撮影現場での「考える」工程を実地に経験した上で、その経験をデザインシートに反映できる。撮影現場で得た発見が設計図にフィードバックされる ・適性:撮影主体・実写中心の構成を志向する学生にとって有効

順序案B:デザインシートを先(第6回)、構成的撮影演習を後(第7回)

・利点:プリプロをまずきっちり完成させた上で、設計図に基づいて撮影演習に臨む。撮影演習が「設計図の検証」として機能する ・適性:AI生成主体・物語性重視の構成を志向する学生にとって有効

順序案C:第6回・第7回を統合し、フィールド演習とデザインシートを並行で扱う

・利点:両者の往復関係を授業内で経験できる。柔軟性が高い ・難点:180分での両者の同時進行は密度が高くなる。担当講師の運用力に依存する

学生層と最終課題の傾向に応じて、年度ごとに順序を選択する運用が望ましい。本稿は基本案として順序案Aを採用するが、AI生成主体の学生比率が高い年度は順序案Bへの切り替えを検討する。

5.5 Phase C:プロダクション — AI生成と特殊撮影(第8〜11回)

5.5.1 第8回 AI生成パイプライン①:text-to-image とキャラクター生成

AI画像生成の基礎パイプラインと、最終課題で使うキャラクター・空間のアセットを生成する。

・ねらい:Nano Banana、Higgsfieldのtext-to-imageを操作し、デザインシートに沿ったアセットを生成できるようになる ・講義:text-to-imageの基本(プロンプト設計、ネガティブプロンプト、シード、参照画像)、モデル別の特性(Nano Banana 2、Flux、Seedream等) ・デモ:講師がデザインシートを起点に、キャラクターと空間の参照画像を生成するプロセスを実演 ・ハンズオン:各自で最終課題のキャラクターと空間の参照画像を生成。複数候補から1セットに絞る ・講評:生成結果のフィードバック、再生成方針の議論 ・最終課題マイルストーン:キャラクター・空間アセットの確定

5.5.2 第9回 AI生成パイプライン②:image-to-video と動画生成

image-to-video/text-to-videoによる動画素材の生成パイプラインを習得する。

・ねらい:fal.ai、Higgsfield、Veo、Kling等のvideo生成モデルを操作し、最終課題の動画素材を生成できるようになる ・講義:image-to-video/text-to-videoの基本、各モデルの特性(Seedance 2.0、Veo、Kling、Wan等)、カメラ動作の指定方法、フレームレート・解像度の判断 ・デモ:講師が第8回で生成したアセットを動画化するプロセスを実演。プロンプトとカメラ動作指定の組み合わせ、再生成の判断 ・ハンズオン:各自で最終課題のキーカットを動画化する。第5回で確定したショットリストに沿って、AI生成パートを進める ・講評:生成動画のレビュー、よくある失敗パターン(フレームレート、解像度、構図崩れ)の共有 ・最終課題マイルストーン:AI生成パートの初稿完成

5.5.3 第10回 特殊撮影演習:マクロ・Tilt-Shift・長時間露光

シリーズ#6で扱った特殊撮影の手法群を実地に演習する。

・ねらい:通常視覚を超える特殊撮影の手段を経験し、最終課題に組み込み可能な素材を撮影する ・講義:マクロ・顕微鏡撮影(Laowa 25mm Ultra Macro等)、Tilt-Shift/Small Planet(Scheimpflug原理)、長時間露光(光跡、流動表現)の原理と機材 ・デモ:講師がマクロレンズ、Tilt-Shiftレンズの実機操作をデモ。長時間露光の撮影設定を実演 ・ハンズオン:各自で特殊撮影機材を実地に試す。最終課題に使える素材を撮影してもよい ・講評:撮影素材の共有、最終課題への組み込み案の議論 ・最終課題マイルストーン:特殊撮影パート(任意採用)の素材確保

5.5.4 第11回 時間操作演習:スローモーションとTwixtor

ハイフレームレート撮影と、Premiere/After Effectsでの時間操作技法を習得する。

・ねらい:撮影時のハイフレームレート設定と、ポスト処理での時間操作(Time Remap、Twixtor)を実装できるようになる ・講義:フレームレート理論(180°シャッタールール、露出ペナルティ、解像度トレードオフ)、aaa_tsushi氏の作風と方法論、Twixtor等の補間ソフト ・デモ:講師がハイフレーム撮影と、Premiere/After EffectsでのTime Remap、Twixtorによる補間処理をデモ ・ハンズオン:各自でハイフレーム撮影を試し、Premiereで時間操作を実装する。最終課題に組み込む場合はその素材を制作 ・講評:時間操作素材のレビュー、表現としての時間操作の妥当性について議論 ・最終課題マイルストーン:プロダクション完了(AI生成、必要に応じて特殊撮影・時間操作の素材確保)

5.5.5 Phase C第10回・第11回の選択肢

第10回(特殊撮影)と第11回(時間操作)は、本稿では必須回として配置しているが、学生の最終課題の方向性に応じて選択肢として扱う運用も成立する。AI生成中心の作品を構想する学生にとっては、これらの撮影演習が直接の制作時間を圧迫する可能性があるためである。

選択肢A(本稿の基本案):第10回・第11回を必須回とする

・利点:すべての学生が一度は特殊撮影と時間操作を経験する。「経験してから採否を判断する」教育的価値が高い ・難点:AI生成中心の学生にとっては最終課題のプロダクション時間が圧迫される

選択肢B:第10回・第11回を選択回とする

・運用:第10回・第11回を「希望者向けワークショップ+自由制作」の構成にする。AI生成パイプラインを継続したい学生は、第8回・第9回の延長として最終課題のプロダクションに集中する ・利点:学生の制作方針に応じた時間配分ができる ・難点:撮影手法を経験しないままシリーズの全容を把握できない学生が生まれる

選択肢C:第10回・第11回のうち1回を経験必須、もう1回を選択回とする

・運用:第10回(特殊撮影)は必須、第11回(時間操作)は選択、など ・利点:選択肢AとBの中間を取る現実的な解

選択肢D:第10回・第11回の内容を統合し、1回に圧縮して、残り1回を最終課題のプロダクション集中回にする

・運用:1回で「特殊撮影+時間操作のサンプリング」を行い、もう1回を制作時間に充てる ・利点:撮影系統を経験させつつ、プロダクション時間も確保できる ・難点:両者の扱いが浅くなる

学生層の構成と最終課題の傾向に応じて、年度ごとに選択する。本稿は基本案として選択肢Aを採用するが、実地での運用を通じて選択肢B〜Dへの切り替えも検討する。

5.6 Phase D:ポストプロダクションと発表(第12〜15回)

5.6.1 第12回 ポストプロダクション基礎:編集・カラー・音

最終課題の編集に着手する。Premiere Pro、DaVinci Resolve等での編集の基礎を確認する。

・ねらい:プロダクションで集めた素材を最終課題の尺と構成に編集できるようになる ・講義:AI生成素材と撮影素材を混在させるポストプロダクションの注意点(フレームレート、解像度、色空間、音声の不一致)、カラーグレーディングの基本、音声の役割 ・デモ:1本のサンプルを最初から編集する流れを実演。AI生成素材と撮影素材の混在における整合の取り方 ・ハンズオン:各自の最終課題を編集する。粗編集を完成させる ・講評:粗編集の個別レビュー、構成の再検討 ・最終課題マイルストーン:粗編集の完成

5.6.2 第13回 仕上げ — カラー・音響・テロップ

粗編集を本編集に進める。カラーグレーディング、音響処理、タイトル・テロップを加える。

・ねらい:作品としての最終的な完成度を高める処理を施せるようになる ・講義:カラーグレーディングの判断軸(参照作品の色見本、シーン間の一貫性)、音響の重ね方(BGM、効果音、環境音)、タイトルデザインの基本 ・デモ:講師による仕上げプロセスのデモ ・ハンズオン:各自の最終課題を仕上げる。カラー、音、タイトルを加える ・講評:仕上げ中の個別レビュー ・最終課題マイルストーン:本編集の完成

5.6.3 第14回 中間講評と再調整

完成間近の最終課題を中間講評にかけ、最終発表に向けた再調整を行う。

・ねらい:他者からのフィードバックを通じて、自作の判断を相対化し、最終調整を行う ・講義:作品の自己プレゼンテーション(コンセプト、技術選択、判断のプロセスの言語化)について短時間 ・デモ:希望者の作品に対し、講師が公開で改善提案を行う ・ハンズオン:全員の作品を上映し、相互フィードバック。各自の再調整時間を確保 ・講評:中間講評として、コンセプト・一貫性・編集の3軸で評価。最終発表に向けての修正方針を確認 ・最終課題マイルストーン:中間講評を経た最終調整

5.6.4 第15回 最終発表

完成作品を発表し、全カリキュラムを総括する。

・ねらい:完成作品の発表と総評を行う。本科目で獲得した判断力と技術の総点検を行う ・講義:本科目の15回を振り返り、各手法がどう組み合わさったかを総覧する。今後の発展経路(学部3年後期の実時間生成型、大学院での研究接続)について ・発表:各自10〜15分(上映+制作プロセス解説) ・講評:相互講評と講師講評。コンセプト・一貫性・編集の3軸での最終評価 ・総括:本科目で獲得したスキルセットと、次の段階(学部3年後期、大学院)への接続を確認

5.7 運用上の留意点

5.7.1 機材とアカウントの予算管理

AI生成ツールは料金が変動するため、毎年度予算を見直す必要がある。学生人数分のアカウントを確保する場合、Higgsfield Pro、fal.ai等の月額・従量課金の見積もりが必要となる。撮影機材は大学の備品とレンタル機材の組み合わせで対応する。

5.7.2 グループ制作と個人制作の判断

最終課題は個人制作を基本とするが、2〜3名の小グループも認める。グループの場合は役割分担を明確にし、全員が各フェーズに関与する設計を求める。グループ制作の評価は、個人の貢献を識別した上で行う。

5.7.3 著作権・倫理への配慮

AI生成ツールの利用規約・著作権ポリシーは流動的である。授業で使うサービスは毎年見直す前提とする。公開・提出にあたっての注意点(学習データ問題、生成物の著作権)を第2回または第14回で短時間扱う。

5.7.4 圧縮案:13回構成への対応

スケジュール上15回が確保できない場合の圧縮案は次のとおりである。

・第2回(フロー総論)と第3回(ツールランドスケープ)を統合 ・第6回(構成的撮影)と第7回(デザインシート)を1.5回分に圧縮 ・第13回(仕上げ)と第14回(中間講評)を1回に統合

最終発表回(第15回)と中間講評(第14回)の機能は必ず残す。


6. 学部3年後期「映像演習II+映像実習II」:実時間生成型の探究

学部3年後期は、本シリーズの「実時間生成型」を担う科目として位置づける。TouchDesigner(以下TD)を基盤として、シリーズ#4の手法群と#5の実空間実装ガイドを統合する。最終課題は撮影スタジオでの上演作品とする。

6.1 位置づけと設計方針

6.1.1 「実時間生成型」を担う科目としての設計

実時間生成型とは、上演時点で映像が生成され、観客の身体・センサ入力・物理空間との相互作用を伴う系統である。シリーズ#4で整理したTDの手法群(基礎、画面内表現、身体/空間、AI連携)と、シリーズ#5で扱った撮影スタジオの実空間実装ガイドを統合した設計を採る。

学部3年前期との対比は次のとおりである。

・前期:画面の中で完結する映像 — 完成された作品を再生する ・後期:実空間で立ち上がる映像 — 起動される作品としての上演

映像の存在様態が、再生されるオブジェクトから、起動されるイベントへと変容する。

6.1.2 前期からの接続と最終課題

前期で「個人/小グループ・時間制作型」の制作経験を積んだ学生が、後期で「個人/小グループ・実時間生成型」に移行する。最終課題は撮影スタジオでの上演作品(個人インスタレーション、またはパフォーマンス映像)とする。

シリーズ#5で詳述した撮影スタジオの環境(マルチプロジェクタ、DMX照明、立体プリミティブ、Suno等のAI音楽との同期、立体音響)を、最終課題のための実装基盤として活用する。

6.1.3 演習IIと実習IIの役割分担

180分は「演習II(90分)」と「実習II(90分)」の連続開講で構成される。前期と同様、運用としては一体で扱う。便宜上、前半90分を「演習II」(講義・デモ・参照作家上映)、後半90分を「実習II」(ハンズオン・制作)と位置づける。

6.1.4 評価設計

最終課題(撮影スタジオでの上演作品)を中心に、以下の3軸で評価する。

・コンセプト:自分のテーマの言語化、参照作家との関係、観客体験の設計 ・技術選択:選択した手法と表現したい内容の整合、技術的妥当性 ・実空間性:実空間での上演としての完成度、観客との関係性

途中過程としては、第7回(テーマ志向宣言)、第11回(実空間試演)、第14回(中間講評)でチェックポイントを置く。

6.2 15回構成の概要

シリーズ#4のフェーズ構成を踏襲しつつ、Phase Dを撮影スタジオでの上演に焦点化する形で再構成する。

・Phase A:基礎と手法の入口(第1〜3回) ・Phase B:第一波 — 画面内表現の手法群(第4〜7回) ・Phase C:第二波 — インタラクションと実空間の手法群(第8〜11回) ・Phase D:撮影スタジオでの実空間実装と発表(第12〜15回)

各フェーズの目的は次のとおりである。

・Phase A:本科目の位置づけ、TDの基本操作、ノードベース・データフロー型の思考様式を体得する ・Phase B:音・時間軸を素材とする画面内表現の手法群を経験する。第7回末にテーマ志向を言語化する ・Phase C:身体・センサ・実空間を素材とするインタラクションと実空間表現の手法群を経験する ・Phase D:撮影スタジオでマルチプロジェクタ・DMX照明・立体プリミティブ・AI音楽と連携した上演作品を制作・発表する

6.2.1 各回の標準ブロック構成

各回は次の4ブロックを基本とする。

・講義:30分(表現史・参照作家・原理) ・デモ:45分(講師がTDを操作し、当日のテーマの基本パッチを構築する) ・ハンズオン:90分(受講者が自分のマシンで実装する) ・講評:15分(成果共有とフィードバック)

ハンズオン時間を意図的に長く取る理由は、TDがノードベース操作の習得自体に時間がかかるためである。

6.2.2 既存教材ページとの対応

lecture.nakayasu.comに既にアップ済みの教材を、各回の事前学習・参考資料として位置づける。各回のハンズオンは、対応する既存教材の事前通読を前提として、180分という限られた時間を表現の探究に集中させる。

6.2.3 経験 → 組み合わせ → 自己表現

シリーズ#4で示した「経験 → 組み合わせ → 自己表現」の設計思想を継承する。

・前半(Phase A〜C、第1〜11回)は手法の経験に集中する。各回のハンズオンは「その手法の最小実装+自分なりの改変」までを到達点とし、完成作品を求めない ・Phase Bの末尾(第7回)で、ここまでの手法のうち自分が惹かれる方向を言語化する「テーマ志向宣言」を行う ・Phase C(第8〜11回)の各回末では、「この手法を自分のテーマでどう使えるか」を数分でメモする ・Phase D(第12〜15回)で、手法を組み合わせて撮影スタジオでの実空間上演にまとめる

参照作家の模倣(模写)は積極的に推奨する。池田亮司、黒川良一、Carsten Nicolai、Pablo Valbuena、Refik Anadol、Daniel Crooks、Joanie Lemercier、AntiVJ等の作品を模写から始め、Phase Dで自己表現に至る流れを設計する。

6.3 Phase A:基礎と手法の入口(第1〜3回)

6.3.1 第1回 ガイダンス:メディアプログラミングとは何か

本科目の位置づけと、メディアプログラミング表現の地図を共有する。

・ねらい:本科目が前期(時間制作型)と何が異なるかを理解し、目指す制作の射程を共有する ・講義:実時間生成型と時間制作型の対比、TDの位置づけ、5つの表現領域(Audio Visual、データ可視化、プロジェクションマッピング、リアルタイムAI生成、時空間操作)、参照作家10名程度の作品上映 ・デモ:TDの起動、UI概観、Operatorファミリー(TOP、CHOP、SOP、MAT、COMP、DAT)の役割、Wire接続、最小限の動的パッチ ・ハンズオン:受講者全員のTouchDesigner非商用版(Non-Commercial)インストール、Operator族を一通り触り、簡単な動的パターンの作成 ・講評:受講者の制作経験ヒアリング、制作したい表現の方向性ヒアリング ・対応教材:TouchDesigner基礎(事前通読を推奨)

6.3.2 第2回 TOPの基本機能とポスター制作

TOPの代表的なオペレータを連結し、第2回にしてすでに完成度のある成果物(ポスター画像)を持ち帰る。

・ねらい:TOPの基本機能を一通り体験し、「フィルタを重ねて発見する」探索的制作のリズムを体得する ・講義:TOPの基本オペレータ(Composite、Blur、Displace、Lookup、Noise、Level、Ramp、Edge等)の役割と用法 ・デモ:Constant TOP、Noise TOP、Composite TOPを組んで動的な抽象パターンを作る。LFO CHOPでパラメータをアニメーションさせる ・ハンズオン:A4ポスター作品を1枚完成させる。Noise→Displace→Compositeなどの組み合わせで、各自が「発見した」ビジュアルを定着させる ・講評:各自のポスターを並べて鑑賞。重ねの順序が違うだけで全く違う表情が生まれることを確認 ・対応教材:TouchDesigner基礎

6.3.3 第3回 2D処理とFeedback

Feedback構造を用いたGenerativeな映像生成の基礎を習得する。

・ねらい:Feedback TOPによる前フレーム参照の発想を理解し、自走するパターン生成を扱えるようになる ・講義:Feedback構造とは何か。前フレームに対する操作を毎フレーム重ねることで、複雑なパターンが時間発展的に生まれる原理。アナログビデオシンセサイザの系譜(Sandin Image Processor等)との関係 ・デモ:Feedback TOP+Transform TOPによる回転・拡大Feedback、Feedback+Blur+Levelによる残像、Feedback+Displace TOPによる流れ ・ハンズオン:自分でFeedback構造を組み、回転速度・拡大率・色変化のパラメータを動かして表情の違いを観察する ・講評:各自のパッチを並べて鑑賞 ・対応教材:Feedback

6.4 Phase B:第一波 — 画面内表現の手法群(第4〜7回)

6.4.1 第4回 Audio Reactive

音響特徴量を取り出して映像を駆動する手法を習得する。

・ねらい:Audio Spectrum CHOPで音響特徴量を取り出し、映像パラメータと連動させる構造を実装できるようになる ・講義:Audio Reactiveの基本原理。Audio File In CHOP、Audio Spectrum CHOPによるFFT、低中高帯域への分割、Math CHOPによる正規化とマッピング ・デモ:1曲を題材に、Bass・Mid・Highの3帯域を取り出し、それぞれを別の映像要素(粒子の量、形の歪み、色相)にマッピングする ・ハンズオン:各自で1曲選び(自分が好きな曲を持参させる)、低中高帯域それぞれに対応する映像要素を設計する。第2回・第3回で作ったパッチを音と連動させてもよい ・講評:各自のAudio Reactiveパッチを並べて鑑賞 ・対応教材:Audio Reactive ver.2

6.4.2 第5回 白黒ジオメトリック表現(池田亮司/黒川良一の模写)

抽象的・幾何学的・音響純度の高いビジュアル表現を模写の段階で経験する。

・ねらい:参照作家の作品構造を模写することで、抽象表現の論理を体得する ・講義:池田亮司、黒川良一、Carsten Nicolaiの作品分析。データ・音・映像の純度を高める設計、白黒・幾何学的・音響純度の高い表現の論理 ・デモ:池田亮司風の白黒矩形パターン、黒川良一風のグリッドベース表現、Nicolai風の極小ノイズを模写するデモ ・ハンズオン:白黒・幾何学的・音響純度の高いパッチを各自で設計する。色を使わない制約下で音響との対応関係を探究する(参照作品の「模写」段階としての位置づけを明示する) ・講評:各自の模写パッチを並べて鑑賞、参照作家との差異を議論 ・対応教材:Audio Reactive ver.2

6.4.3 第6回 Time Displacement

時間軸を空間に展開する手法を習得する。

・ねらい:Time Displaceによる「画像の各画素が異なる時刻のフレームを参照する」表現を実装できるようになる ・講義:Time Displacementの原理。Cache TOPによる過去フレームのバッファリング。各画素に異なる遅延量を割り当てることで生まれる時空間の歪み ・デモ:Cache TOPによるフレームバッファ構築、Displace TOPによる時間軸方向の歪み。輝度マップを遅延量に割り当てる例、複数の遅延パターンの比較 ・ハンズオン:自分の動画素材または第4〜5回のパッチ出力をTime Displacementで歪ませる。マップの設計を変えて表情の差を観察 ・講評:各自のTime Displacement作品を並べて鑑賞 ・対応教材:Time Displacement

6.4.4 第7回 Slit Scanとテーマ志向宣言

走査線的に時間と空間を入れ替える手法を習得する。Phase Bの仕上げとして、各自のテーマ志向を言語化する。

・ねらい:Slit Scanの原理を理解する。Phase A〜Bで経験した手法のうち、自分が惹かれる方向を言語化する ・講義:Slit Scanの原理。各横ライン(または縦ライン)を異なる時刻のフレームから抽出する。スキャナの動作原理との対応。Daniel Crooks Static No.12シリーズの構造分析 ・デモ:Cache TOPによる過去フレームの保持と、Crop TOP+Composite TOPによる時系列ラインの再構成 ・ハンズオン:Slit Scan作品の試作。残り30分でテーマ志向宣言シート(A4 1枚)を作成する。記入項目は「Phase A〜Bで一番惹かれた手法とその理由」「自分が映像で扱いたい題材・関心」「想像している発表形式(画面内/インスタレーション/パフォーマンス/空間演出)」 ・講評:テーマ志向宣言の共有。教員から「Phase Cのどの手法が貴方の方向に効くか」をコメントする ・対応教材:Slit Scan

6.5 Phase C:第二波 — インタラクションと実空間の手法群(第8〜11回)

Phase Cの各回末では、「この手法を自分のテーマでどう使えるか」を各自数分でメモする時間を設ける。Phase Dの個別制作で参照する材料として蓄積する。

6.5.1 第8回 Optical FlowとParticlesGPU

カメラ映像から動きベクトルを抽出し、GPU粒子系を駆動する。

・ねらい:Optical FlowとParticlesGPUの組み合わせによる、動きに駆動された粒子表現を実装できるようになる ・講義:Optical Flowとは何か(連続フレーム間の動きベクトルの推定)、GPU粒子系の原理、Javier Casadidio氏の作風分析 ・デモ:Video Device In TOP→Optical Flow TOP→Velocity FieldとしてParticlesGPUに渡す→粒子の軌跡を画面に描画 ・ハンズオン:自分のカメラ映像で粒子を駆動する。粒子数・粒子寿命・色マッピング・残像のパラメータを動かして表情の違いを観察 ・講評:各自の粒子表現を並べて鑑賞。テーマ志向との接続点メモ ・対応教材:Optical Flow and ParticlesGPU、Javier Casadidio YouTubeチャンネル

6.5.2 第9回 MediaPipeによる身体ランドマーク取得

Webカメラ1台から顔・手・全身の関節位置をリアルタイムに取得する。

・ねらい:MediaPipeによる顔・手・身体のランドマーク取得をTDに統合し、身体駆動の映像表現を実装できるようになる ・講義:MediaPipeの概要(Googleの軽量機械学習推論ライブラリ)、Face Mesh(478点)、Hand Tracking(21点×両手)、Pose(33点)の特性 ・デモ:TDMediaPipeコンポーネントを介して、Webカメラから顔・手・全身のランドマーク座標をCHOP化、Instance COMPの位置に流し込んで身体に追従する粒子表現を構築 ・ハンズオン:各自で顔・手・身体のいずれかを選び、ランドマークと連動する映像を制作する。第8回のParticlesGPUと組み合わせて、身体の動きで粒子を駆動するパターンも試す ・講評:身体駆動表現の経験について相互フィードバック。テーマ志向との接続点メモ ・対応教材:Python連携、TDMediaPipe(torinmb)

6.5.3 第10回 Azure Kinectで3D身体トラッキング

深度情報付きの3D身体トラッキングを用いた表現を習得する。

・ねらい:Azure Kinectによる3D骨格・深度マップを取得し、空間的な身体駆動表現を実装できるようになる ・講義:Azure Kinectの構造(深度センサ、RGB、IRアレイ)、Body Tracking機能の概要、MediaPipeとの違い(2D推定 vs 3D計測、屋外・遠距離での挙動、複数人検出)、teamLabや真鍋大度のKinectベース作品分析 ・デモ:Azure KinectからBody Tracking CHOP/Depth TOPを取得、3D骨格を3D空間に配置、深度マップを点群として描画 ・ハンズオン:Kinectで取得した3D骨格を素材に、自分のテーマに近い表現を試作。深度マップを点群として可視化する別パターンも試す ・講評:3D身体表現の可能性についてのフィードバック。テーマ志向との接続点メモ ・対応教材:Azure Kinect連携

6.5.4 第11回 プロジェクションマッピング(基礎+細密マッピング)と実空間試演

プロジェクタを介して映像を実空間に配置する手法と、撮影スタジオでの実空間試演を組み合わせる。

・ねらい:プロジェクションマッピングの基礎技術と細密マッピングの思想を理解する。撮影スタジオ環境で実空間試演を行う ・講義:プロジェクションマッピングの歴史と表現の幅、投影面のキャリブレーション、ワープ変形、立体オブジェクトの面ごとのマッピング、Pablo Valbuena、Joanie Lemercier、1024 Architecture、AntiVJの作品分析 ・デモ:CamSchnappr または KantanMapperで四隅変形→複数面分割の基礎、Window COMPで出力先制御、Replicator COMPによる大量同種要素の自動配置、Container COMP+Layout TOPで各面への独立映像割り当て ・ハンズオン:撮影スタジオに移動し、教室の壁・机・持参の立体オブジェクトに、これまで作ったパッチの映像を投影。ワープ変形と細密マッピングを試す ・講評:実空間への展開で生まれた経験について議論。Phase Dの最終課題の構想を全員から短時間ヒアリング ・最終課題マイルストーン:実空間試演を通じた最終課題構想の確定 ・対応教材:シリーズ#5の実空間実装ガイド、MadMapper教材(対比として)

6.6 Phase D:撮影スタジオでの実空間実装と発表(第12〜15回)

Phase Dは、シリーズ#5で詳述した撮影スタジオの実装ガイドを直接活用するフェーズである。マルチプロジェクタ、DMX照明、立体プリミティブ、AI音楽との同期、立体音響といった環境を最終課題のための実装基盤として用いる。

6.6.1 第12回 Stable Diffusion/StreamDiffusion連携

リアルタイムAI生成画像をTDに取り込む手法を習得する。

・ねらい:観客の動きやカメラ映像をリアルタイムでAI生成に変換する手法を実装できるようになる ・講義:StableDiffusionの基本構造、LCM/SDXL Turboによる高速化、StreamDiffusionの仕組み、リアルタイムAI生成の現在地と限界(解像度、フレームレート、GPU要求) ・デモ:DOTSimulate氏のStreamDiffusion-TDコンポーネントを介して、Webカメラ映像をAIスタイル変換でリアルタイム再描画、ControlNet(OpenPose、Canny等)と組み合わせて構図制約を加える ・ハンズオン:各自でカメラ入力+StreamDiffusionの基本パッチを構築。最終課題への組み込み案を試作 ・講評:「リアルタイムにAI生成された映像」がもたらす経験について議論 ・対応教材:Python連携、StreamDiffusion-TD

6.6.2 第13回 撮影スタジオでの実装 — DMX照明とAI音楽同期

シリーズ#5の実空間実装ガイドの中核を実地に習得する。

・ねらい:DMX照明(Art-Net経由)の制御と、Suno等のAI音楽との同期を実装できるようになる ・講義:DMX512-A over UDPの仕組み、Art-Net DMX Out CHOPの操作、ムービングヘッド・LEDフィクスチャの典型的チャンネル構成、Suno等のAI音楽の活用、AudioとMIDIによるTDの駆動 ・デモ:撮影スタジオで、Art-Net DMX Out CHOPによる実際の照明制御。Suno生成音源との同期再生 ・ハンズオン:各自の最終課題でDMX照明を1〜2台制御してみる。AI音楽の活用は希望者を中心に試す ・講評:実空間実装の中間レビュー ・最終課題マイルストーン:DMX照明、AI音楽、StreamDiffusionの組み込み判断

6.6.3 第14回 統合制作と中間講評

最終課題の制作を進め、撮影スタジオでの中間講評を行う。

・ねらい:個人テーマの作品を、第1〜13回で習得した技法を統合して制作する。撮影スタジオでの実空間としての完成度を高める ・講義:作品コンセプトの言語化、技術選択の妥当性、観客体験の設計について短時間 ・デモ:受講者のうち希望者の進行中作品に対し、講師が公開デバッグ・改善提案を行う ・ハンズオン:各自の最終課題制作。撮影スタジオでの実空間試演を行いながら調整 ・講評:全員の中間状態を撮影スタジオで上演し、相互フィードバック ・最終課題マイルストーン:実空間試演を経た最終調整

6.6.4 第15回 最終発表 — 撮影スタジオでの実空間上演

完成作品を撮影スタジオで上演し、全カリキュラムを総括する。

・ねらい:完成作品の発表と総評を行う。撮影スタジオの設備をフル活用した実空間上演として、本科目の「実空間性」を体感的に確認する ・講義:本科目の15回を振り返り、各手法がどのように組み合わさったかを総覧する。今後の発展経路(Notch、Unreal Engine、Unity、openFrameworks、Cables.gl等への展開、コミュニティ・展示機会、大学院での研究接続)について ・発表:各自の最終作品を、撮影スタジオに展開する形で発表する。マルチプロジェクタ、DMX照明、Kinect、スピーカ、立体プリミティブを実際にセットして上演 ・講評:講師+受講者全員による相互講評。コンセプト・技術選択・実空間性の3軸での最終評価 ・総括:本科目で獲得したスキルセットと、次の段階(大学院での研究接続)への接続を確認

6.6.5 Phase D第13回の内容構成に関する選択肢

第13回(撮影スタジオでの実装 — DMX照明とAI音楽同期)は、本稿の基本案ではDMX照明とAI音楽同期を1回に詰め込んでいる。これは両者ともシリーズ#5で扱った重要な手法だが、180分での同時習得は密度が高い。学生の事前経験と最終課題の方向性に応じて、複数の選択肢がある。

選択肢A(本稿の基本案):DMX照明とAI音楽同期を第13回1回に統合

・利点:15回枠を維持できる。両手法を一通り経験させられる ・難点:両者の扱いが浅くなる。DMX照明の実機操作に時間を取られ、AI音楽同期の習得が薄くなる可能性がある

選択肢B:第13回をDMX照明集中、新たに第14回として「AI音楽同期+StreamDiffusionとの統合」を配置。中間講評と最終発表を圧縮

・運用:第13回(DMX照明)→ 第14回(AI音楽同期と統合)→ 第15回(最終発表に中間講評の機能を統合) ・利点:両手法を独立して扱える。撮影スタジオでの実装が手厚くなる ・難点:中間講評の独立性が失われる。最終発表前のフィードバック機会が減る

選択肢C:第13回をDMX照明、第14回をAI音楽同期と中間講評の組み合わせ、第15回を最終発表

・運用:選択肢Bと選択肢A基本案の中間 ・利点:両手法を独立して扱いつつ、中間講評も部分的に維持 ・難点:第14回が複合的になる

選択肢D:15回をオーバーする運用 — 第13回をDMX照明、第14回をAI音楽同期、第15回を中間講評、第16回を最終発表

・運用:本科目を16回として運用する(科目規定上の制約があれば不可) ・利点:両手法を独立して、かつ中間講評・最終発表の独立性も維持できる ・難点:制度上の制約に依存する。可能なら本来的にこの構成が望ましい

選択肢E:AI音楽同期をPhase Cまたは大学院に回す

・運用:第13回をDMX照明集中とし、AI音楽同期は希望者向けの参考資料・自習課題として配布。または大学院「キネマトグラフィックス特論」で深掘りする ・利点:本科目内の密度が下がる ・難点:シリーズ#5の中核である「AI音楽との同期」を本科目で扱えなくなる

実地での運用判断としては、撮影スタジオの予約状況、学生層、最終課題の傾向、科目規定上の制約を踏まえて、選択肢A〜Eから選択する。本稿は基本案として選択肢Aを採用するが、特に選択肢Bまたは選択肢Dへの拡張は教育効果として優位である可能性が高いため、運用後の振り返りで検討する余地がある。

6.7 運用上の留意点

6.7.1 撮影スタジオの利用調整

撮影スタジオは他の授業・研究室との共用施設である。第11回(実空間試演)、第13回(DMX照明実装)、第14回(中間講評)、第15回(最終発表)の少なくとも4回は撮影スタジオでの開講を確保する必要がある。スタジオ利用予約は学期開始前に調整する。

6.7.2 機材の責任管理

プロジェクタ、DMX照明、Azure Kinect、スピーカ等の機材は、グループまたは個人での責任管理を明示する。機材の故障・破損のリスクを学生に周知し、適切な取り扱いを徹底する。

6.7.3 TouchDesignerのライセンス

学生は非商用版(Non-Commercial)で学習する。最終課題の上演が学外公開・コンペティション応募等に発展する場合は、Educational版またはCommercial版が必要となる。これらの選択肢について第1回または最終回で言及する。

6.7.4 圧縮案

スケジュール上15回が確保できない場合の圧縮案は次のとおりである。

・第2回(TOP基本)と第3回(Feedback)を統合 ・第9回(MediaPipe)と第10回(Kinect)を1.5回分に圧縮 ・第13回(DMX照明)と第14回(中間講評)を1回に統合

最終発表回(第15回)と中間講評(第14回相当)の機能は必ず残す。


7. 大学院1年「キネマトグラフィックス特論」:研究との接続

大学院「キネマトグラフィックス特論」は、学部と異なる前提を持つ授業である。他大学・他大学院から進学する受講者が一定数含まれるため、学部での履修を前提にできない。本章では、現状の構成評価と、シリーズ#1〜#6の知見を踏まえた更新方針を述べる。

7.1 現状の構成

本授業の現状の構成は以下のとおりである。

・SIGGRAPH Art Paperサーベイ:アカデミック・リサーチ主体の都立大教育から一歩離れて視野を広げ、頭を柔軟にする体操として位置づけている ・ComfyCloud+Runway:動画生成の基礎を実践的に習得する ・最終課題:各受講者の所属研究室のテーマがあるため、Art Paperの観点で研究を見直すこと、研究につながるビデオプロトタイピング映像、もしくは単純に映像作品制作のいずれかを選択

7.2 現状の評価

本授業は次の点で機能している。

・Art Paperサーベイによる視野拡張が成立している:受講者がアカデミックな枠組みから一旦離れ、芸術系の最新動向に触れることで、自分の研究を別の角度から見直すきっかけになっている ・ComfyCloud+Runwayの組み合わせが妥当である:ノードベースのComfyCloudと、API型のRunwayという対照的な2系統を経験させることで、ツール選択の判断軸を持たせている ・研究との接続が機能している:受講者が「研究」「ビデオプロトタイピング」「映像作品」のいずれかを最終課題として選択できる柔軟性が、多様な背景の大学院生を受け入れる構造になっている

7.3 更新方針

シリーズ#1〜#6の知見を踏まえ、現状の骨格を維持しつつ、以下の更新を加える。

7.3.1 中心の置き直し:Art Paperサーベイ+個人修士研究+動画生成深掘り

本授業の中心を「Art Paperサーベイと個人修士研究を中心に据えた、動画生成の基礎と発展」として再整理する。骨格は次のとおりである。

・Art Paperサーベイ:シリーズ全体を通じた視野拡張と、自分の研究テーマを相対化する視座の獲得 ・個人修士研究との接続:各受講者の研究室テーマに、本授業の知見をどう接続するかを明示的に扱う ・動画生成の基礎:他大学院からの進学者を考慮し、動画生成ツールの基礎を確実に押さえる ・動画生成の発展:学部で扱わない深掘り(カスタムワークフロー、3D連携、研究との接続)を含む

7.3.2 他大学院進学者への配慮

学部から都立大に進学した受講者と、他大学・他大学院から進学した受講者の双方を対象とするため、以下の配慮を行う。

・動画生成の基礎は確実にカバー:text-to-image、image-to-video、ComfyCloudの基本操作を、学部での扱いと一部重複しても省略しない ・学部既習者には発展課題を提示:学部で本シリーズの内容を経験済みの受講者に対しては、追加課題またはより深い参照Paperを提示する ・他大学院進学者には参照教材を案内:lecture.nakayasu.comのEssayと教材ページを、必要に応じて事前学習として位置づける

7.3.3 学部で行わない動画生成表現・テクニックの追加

学部のカリキュラムで扱わない領域を、大学院で深掘りする。具体的には以下である。

ComfyCloudの本格的ワークフロー構築

学部3年前期では、Higgsfield、fal.ai、Nano Banana等のAPI型ツールを中心に扱う。ComfyCloudの本格的ノードベース・ワークフローは大学院で深掘りする領域とする。

・カスタムワークフロー構築:LoRA自作、ControlNet多段、AnimateDiff/Wan系の組み合わせ ・カスタムノード活用:拡張機能の選択判断、互換性問題の対応 ・モデル比較の体系的経験:SDXL、Flux、HiDream等の特性比較 ・参照:シリーズ#2「ComfyUIベースのカリキュラム」

3Dから映像へのパイプライン

Andrew Price氏が提唱する「AIの制御装置としての3D」を実地に経験する。

・Blenderでのブロッキング → デプスパス書き出し → ComfyUIへの渡し ・3DカメラデータとAI生成の連携、空間的一貫性の制御 ・Gaussian Splatting/NeRFからの動画化への入口 ・参照:シリーズ#1のAndrew Price氏の論点

研究としての映像表現とビデオプロトタイピング

最終課題と接続する研究的な映像制作を扱う。

・SIGGRAPH Art Paperの形式分析:論文と作品の対応関係、研究としての映像のレトリック ・ビデオプロトタイピングの方法論:HCI研究、デザイン研究、メディアアート研究での使われ方 ・自分の研究テーマを映像でプロトタイピングする練習

Veo/Soraクラスの長尺・高解像度生成の批評的検討

学部では時間と予算の制約から扱いきれない、最先端の長尺生成モデルをアカデミックな視点で検討する。

・モデルの特性比較、API利用コスト、研究での使用可能性 ・倫理的・著作権的論点:研究公開時の制約、学習データの問題 ・短編作品制作での試用:1〜2回の実験的使用

7.3.4 構成案:15回または8〜10回での運用

大学院授業は学部より少ないコマ数(典型的には8〜10回)で運用される場合が多いため、構成は柔軟に対応する。フェーズ構成は以下を基本とする。

・前半:Art Paperサーベイ+動画生成基礎(受講者の事前知識に応じてバランス調整) ・中盤:動画生成深掘り(ComfyCloud本格運用、3D連携、研究的映像表現) ・後半:個人修士研究と接続した最終課題の制作・発表

標準的な構成例(10回相当)

・第1〜2回:ガイダンス、Art Paperサーベイ概論、参考論文・参考作品の上映 ・第3〜4回:動画生成基礎(Runway、ComfyCloud基本操作) ・第5〜6回:動画生成深掘り(ComfyCloudカスタムワークフロー、3D連携) ・第7回:研究としての映像表現、ビデオプロトタイピング方法論 ・第8〜9回:最終課題制作(個人修士研究との接続) ・第10回:最終発表

7.3.5 最終課題の3選択肢

現状の選択肢を維持する。受講者の研究室テーマと、本授業で深掘りした内容に応じて、以下のいずれかを選ぶ。

・研究の再考察:Art Paperの視座で自分の研究テーマを見直すレポート。映像は補助的に使う ・ビデオプロトタイピング:研究につながる映像プロトタイプ。研究の入口・体験・予備実験として機能する映像 ・映像作品:純粋な作品制作。研究との接続は問わない

評価は、選択した形式に応じて、研究的考察の深さ、プロトタイプの妥当性、または作品としての完成度を軸とする。

7.4 シリーズ全体との関係

大学院授業は、シリーズ#1〜#6の知見を「素材として参照する」位置にある。学部のように特定のEssayを直接展開するのではなく、受講者の関心・研究テーマに応じて、シリーズ全体から必要な部分を選択して深掘りする運用となる。

・シリーズ#1:思想軸として全体に通底する ・シリーズ#2:ComfyCloud本格運用の素材として活用 ・シリーズ#3:API型ツール基礎の素材として活用 ・シリーズ#4:実時間生成型に興味を持つ受講者への参照素材 ・シリーズ#5:実空間上演を研究に組み込む受講者への参照素材 ・シリーズ#6:撮影手法を研究に組み込む受講者への参照素材

このように、大学院授業はシリーズ全体の知見が「使える状態」になっていることを前提として、各受講者が選択的に深掘りする構造となる。


8. おわりに

本稿は、シリーズ#1〜#6で個別に掘り下げてきた手法群を、担当4授業のカリキュラムとして統合する試みであった。学部2年「映像基礎」のマイナーアップデート方針、学部3年前期「映像演習I+実習I」と後期「映像演習II+実習II」の15回詳細カリキュラム、大学院「キネマトグラフィックス特論」の更新方針を順に提示した。

本シリーズで一貫して維持してきた立場は、シリーズ#1で示したAndrew Price氏の「Labor vs. judgment」の論点である。AIに置き換えられるのは労働の部分であり、人間に残るのは判断・物語・世界観の選択である、というメッセージは、本稿で設計した4授業すべての背景に通底している。学部2年で「グループの判断としての制作」、学部3年で「個人の判断としての制作」、大学院で「研究の問いと結びついた制作」という縦の流れは、判断の解像度を段階的に高めていく構造として読むことができる。

カリキュラムは固定的なものではなく、毎年の技術動向と受講者層の変化に応じて改訂される必要がある。本稿で提示した設計は、2026年時点の暫定的な構想である。AIツールの料金変動、新しいモデルの登場、撮影機材の進化、TouchDesignerのバージョンアップ等に応じて、各回の内容は毎年見直される。

本シリーズの「個別のEssay」と「統合のEssay(本稿)」の関係は、料理に例えるなら、レシピ集と献立表の関係に近い。シリーズ#1〜#6は手法・思想の個別レシピであり、本稿はそれを学期の献立に組んだものである。レシピが新しく追加されれば献立も書き換わる。シリーズの個別Essayが今後も追加・更新されることを前提に、本稿の枠組みも開かれた設計として扱う。

本稿の終わりに、シリーズ全体としての射程を改めて確認する。映像制作という領域は、AIの登場によって生産性が劇的に変化したのではなく、判断の質が問われる領域へと変容した。教育に求められるのは、ツールの操作習得ではなく、判断力の練習である。その練習場として、4授業がそれぞれの段階で何を提供し、何を要求するか — 本稿の設計は、その問いへの現時点での答えである。