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Media Creation Curriculum in the AI Era #1 — Andrew Price

Updated: 2026-05*

1. はじめに

本稿は、私の授業構想に関するClaude AIとの問答であり、今後複数回に渡って議論を重ねていく。初回はAndrew Price氏の発言をベースに進める。映像制作領域は2023年以降のAI画像/動画生成の急速な進展により、5年前と同じ前提では授業を組み立てられない段階に入っている。都立大「映像演習・実習I・II」の今後の刷新を念頭に、外部の議論・実践事例・関連ツールを順に整理し、複数年スパンで耐えうるカリキュラム設計を導出することを目的とする。

今回は、Blenderの「ドーナッツチュートリアル」で広く知られるAndrew Price氏(Blender Guru)が2025年から2026年にかけて発信した「AIと3DCGの今後」に関する見解を整理し、その議論を起点に映像授業の方向性を提案する。Price氏の主張は単純な「3DCG不要論」ではなく、「3DをAIの制御装置として再定義する」というニュアンスを含んでいる点に注意して読み解く。

1.1 参考サイト

参考)

1.2 本稿で扱う内容

  • Andrew Price氏のAI/3DCGに関する主張の要約
  • 3DCGに残る部分・消える部分の整理
  • 今後5〜10年の映像制作で残る制作手法
  • 都立大「映像演習・実習I・II」(180分×15回×2学期)の刷新案
  • リスクと留意点

2. Andrew Price氏の主張

Price氏の発信内容を、全体構図・残るスキル/消えるスキル・実践提案の3点に分けて整理する。

2.1 全体構図

Price氏の論点は「AIによってクリエイティブの主役は大スタジオから個人・小規模チームに移る」というものである。SIGGRAPH 2025で彼が強調したのは、Blender上のリアルタイムパストレーシングやNVIDIA DLSSなど、かつて大スタジオしか手にできなかった技術が個人の手元で動くようになったというdemocratization(民主化)の事実である。大スタジオができるレベルの映画を3人で作れる時代になった、というのが彼の認識である。

AIに脅かされるのは個人アーティストではなく、規模とコストに縛られた大企業の側である、というのが彼の立場である。「ハイ・エージェンシー(high-agency)」なアーティスト、すなわち物語を構想するだけでなく映画やゲーム一本を自律的に完成させられる作家こそが、これからの報酬を得るとされる。AIはディズニーやピクサーの完璧な毛髪表現に勝てなくてよい。YouTubeが深夜テレビに対してしたように、ニッチで本物の物語で勝てばよい、と彼は比喩で説明している。

2.2 3DCGに残る部分・消える部分

Price氏自身のLinkedIn投稿が最も明快である。要旨は次の通りである。

  • 100人のアーティストに「架空の惑星の乗り物」を設計させれば100通りの答えが返ってくる。正解のない創作を、どうやって正解で学習させるのか
  • テキスト入力では制御不能な創造性の領域については、3Dの方がはるかに細かい制御を提供できるため、3Dアーティストの長いキャリアはまだ続く
  • 一方で、特定のAIワークフロー下では価値が下がるスキルもある
  • 自分が時間をかけて身につけたスキルを失うのは楽しくないが、それは新しいことではない
  • 他人の経済的負担の上でAIワークフローに永遠に抵抗できると考えるのは、率直に言って愚かである

2.3 「3DをAIの制御装置に使う」という提案

これがPrice氏の2026年現在の中心的な実践提案である。BCON 2026(Austin開催の北米版)での講演「How to control AI with Blender」で、彼はBlenderをモデリングアプリではなく「AIに指示を与えるためのコントロールツール」として位置づけている。

提示されたワークフローは下記のように整理できる。

  • Blenderで簡易にブロッキング(粗い空間構成)を組む
  • デプスパスを書き出してComfyUIに渡し、AIの画像生成を信頼できる方向に誘導する
  • 生成画像から3Dプレースホルダーを作る
  • AI支援のワールドバイブル(世界観設定集)を構築する
  • 3Dアセットをバッチ生成し、Legoのように組み上げる

このセクションで重要なキーワードが2つある。

ひとつは「Labor vs. judgment(労働 対 判断)」である。AIに置き換えられるのは「労働(labor)」の部分で、人間に残るのは「判断(judgment)」、すなわち趣味(taste)、構成、世界観、物語の選択である。

もうひとつは「Automate only the skills you’re willing to lose(失ってもよいスキルだけを自動化せよ)」という警句である。自動化の選択は技術的判断ではなく、自分のアイデンティティに関わる選択である、というのが含意である。


3. 今後5〜10年の映像制作で「残る制作手法」

Price氏の議論を、彼のBlender寄りバイアスを差し引いて一般化すると、向こう5〜10年に残る制作手法は概ね次のように整理できる。

3.1 残る・むしろ価値が上がる領域

  • 物語構築・世界観設計・キャラクター設定書(worldbible)
  • カメラ言語、構図、編集、間(タイミング)の判断
  • 演技・身体性・実写素材(カメラの前で何かを起こす行為)
  • AIに対するディレクション能力(プロンプト、リファレンス、参照画像、デプス・ポーズなど構造的制約の与え方)
  • 著作権・倫理・データセットに関する判断

3.2 自動化が進む領域

  • 個別アセットの一次生成(モデリング、テクスチャリング、リギング)
  • インビトゥイーン作画、リップシンク、簡易VFX
  • ラフコンセプトアートの最初の数十枚
  • 色補正やコンポジットの一次パス

3.3 グレーゾーン

  • 3DCGのモデリング・アニメーションは、最終納品物としては減るが、AI生成を制御するための「設計図/中間表現」としてむしろ需要が増す可能性がある(Price氏のデプスパス活用がその典型である)
  • TouchDesignerのようなリアルタイム・ノードベース環境は、AI生成物の出力先・ライブ演出の場として再評価される余地がある

4. 都立大カリキュラム刷新の方向性

ここから具体的な授業設計の検討に入る。

4.1 現状と原案

授業時数の前提は下記の通りである。

  • 映像演習・実習I:180分 × 15回(前期)
  • 映像演習・実習II:180分 × 15回(後期)
  • 合計:30回・90時間

現状の構成および検討中の原案は下記の通りである。

  • 現状:Blender 60% / After Effects 20% / TouchDesigner 20%
  • 原案:Blender 0% / Comfy Cloud 20% / Runway 60% / 実写撮影(アクションカメラ等)20%

4.2 原案の評価

原案の方向は妥当である。実写を中軸に据え、画像生成でキャラクター設計をまとめ、そこから動画生成へ展開するパイプラインは、現行のAIの強み(image-to-video、video-to-video、ポーズ転写)と整合する。演技から変換するという発想も、AIの「素材を尊重する」モードと相性が良い。

ただし2点、再検討の余地がある。

第一に、Runway 60%という特定ベンダー依存は、5〜10年スパンでは過剰なリスクである。AI動画生成は半年単位で主役が交代している領域であり、Runway / Veo / Sora / Kling / Wan / Hailuo などのいずれが本命になるかは現時点で確定していない。授業は「ツール名」ではなく「パイプラインのパターン」を教える設計に寄せた方がよい。

第二に、3DCGをゼロにする判断は、Price氏の最新の論調(「AIの制御装置として3Dを使う」)とはやや矛盾する。完全にゼロにするのではなく、「モデリング教育」ではなく「空間と構造をAIに伝えるための3D」として最小限残す選択肢を検討する価値がある。

4.3 比率の修正案

90時間の総量を踏まえて、以下のように調整する案を提示する。比率は授業全体に対する活動時間の配分であり、個別セッションへの厳密な対応ではない。

  • AI画像/動画生成(Comfy Cloud / Runway 等を区別せず統合):50%(約45時間)
  • 実写撮影と素材化:25%(約23時間)
  • 3DCG(AI制御用の最小構成):10%(約9時間)
  • 編集・判断・ディレクション演習・最終制作:15%(約13時間)

合計100%。特定ベンダー名を比率に書かないことで、ツールが変動しても授業設計は維持できる。

4.4 映像演習・実習I(前期15回)の構成案

前期は「素材作りと一次パイプラインの習得」に重心を置く。Price氏の言う「判断(judgment)」の演習を成立させるためには、まず素材の作り方を一通り経験させる必要がある。

  • 第1回:ガイダンス/AI時代の映像制作概論
    • 「Labor vs. judgment」の概念紹介
    • 現行ツール群(AI画像/動画生成、実写、3DCG)の俯瞰
    • 受講後の到達目標と評価基準の提示
  • 第2回:キャラクターと世界観の設計(worldbible 入門)
    • 設定書とは何か、なぜAI時代にむしろ重要か
    • テキスト+参考画像で1枚の設定シートをまとめる演習
  • 第3回:AI画像生成の基礎①
    • Comfy Cloud / ComfyUI の概念と最小ワークフロー
    • プロンプトの構造、ネガティブプロンプト
  • 第4回:AI画像生成の基礎②
    • リファレンス画像の活用(image-to-image、参照画像、構図指定の考え方)
    • 同じキャラクター・同じ世界観で複数枚を出す練習
  • 第5回:実写撮影の基礎①
    • アクションカメラ等の機材、構図、ライティングの最小限
    • 短いカットを複数撮る演習
  • 第6回:実写撮影の基礎②
    • 演技指示、ワンカットの組み立て、音声収録の基礎
    • 後段のAI処理を見越した「素材としての撮り方」
  • 第7回:AI動画生成の基礎①
    • text-to-video の運用と限界
    • シード・カメラ指定・尺の扱い
  • 第8回:AI動画生成の基礎②
    • image-to-video の運用
    • 第4回で出した1枚絵を動かす演習
  • 第9回:AI動画生成の応用
    • video-to-video の運用(実写素材の変換)
    • 第6回の実写素材を起点とした変換実習
  • 第10回:編集の基礎①
    • DaVinci Resolve 等の編集ツール導入
    • カット割り、テンポ、つなぎ
  • 第11回:編集の基礎②
    • 音と映像の同期、簡易サウンドデザイン
    • カラーグレーディングの最小限
  • 第12回:前期課題①(企画・絵コンテ)
    • 15〜30秒の短尺作品の企画
    • 撮影/生成プランの確定
  • 第13回:前期課題②(素材生成・撮影)
  • 第14回:前期課題③(編集・仕上げ)
  • 第15回:講評と振り返り

4.5 映像演習・実習II(後期15回)の構成案

後期は「キャラクター一貫性」「3DによるAI制御」「作品制作」に重心を置く。前期で個別のスキルを習得しているため、後期はそれらを統合して一本の作品にする経験を積ませる。

  • 第1回:ガイダンス/前期の振り返りと後期の目標
    • 前期作品の総括
    • 後期で扱う3つの軸(一貫性/3D制御/作品化)の提示
  • 第2回:キャラクター一貫性の基礎
    • 同一キャラクターを複数カットで保つ手法(reference image、LoRA、IP-Adapter等の概念)
    • 設定シートからカット単位の生成へ
  • 第3回:演技から変換するパイプライン①
    • 演技を撮影し、AIで別キャラクター/別画風に変換する実習
    • pose-to-video、video-to-video の応用
  • 第4回:演技から変換するパイプライン②
    • 演技と生成キャラクターの統合
    • 表情・口元・手などの破綻への対処
  • 第5回:3DをAIの制御装置として使う①
    • Blender最小限の操作(オブジェクトの配置、カメラ、ライト)
    • ※ ポリゴン編集には踏み込まない。空間と構図を組むことに徹する
  • 第6回:3DをAIの制御装置として使う②
    • デプスパス/ノーマルパスの書き出し
    • 書き出した画像をAIに渡して構図を制御する演習
  • 第7回:3DをAIの制御装置として使う③
    • 同一空間で複数カットを生成する練習
    • 3D側のカメラ移動を活かしたシーケンス生成
  • 第8回:ComfyUIのノードベース構築(任意で深掘り)
    • カスタムワークフローの組み立て
    • バッチ生成の基礎
  • 第9回:著作権・倫理・データセットの整理
    • 学習データに関する現在の議論
    • 公開・提出にあたっての注意点
  • 第10回:後期課題①(企画・シナリオ・絵コンテ)
    • 1〜3分程度の作品企画
    • 制作スケジュールの確定
  • 第11回:後期課題②(素材生成・撮影・3D設計)
  • 第12回:後期課題③(一次編集)
  • 第13回:後期課題④(仕上げ)
  • 第14回:講評準備・上映確認
  • 第15回:最終講評と総括

4.6 3DCGの扱いに関する判断

3案を比較する。

  • A案:完全にゼロにする。リファレンス資料のみ提供
  • B案:後期に3回(約9時間)で「AIを制御するための3D」として導入する。ブロッキング・デプス書き出し・カメラ設置の3点に絞り、ポリゴン編集には踏み込まない
  • C案:前期・後期通じて従来通りの基礎モデリングを残す

推奨はB案である。理由は3つある。

第一に、Price氏が示すように、3Dの本質的な価値は「空間と構造をコンピュータに正確に伝えられる」点にあり、これはAI時代にも残る能力である。

第二に、モデリング技能そのもの(ポリゴン編集、UV、リギング)は学生がAIで代替し始めており、90時間という限られた授業時間で深く教える費用対効果が低い。

第三に、ゼロにするとAIが暴走したとき(構図が崩れる、空間が不整合になる)に学生が立て直す手段を失う。

※ C案は、もし美術系出身でモデリングの感覚を身につけたい学生が一定数いる場合、別途自習教材を充実させる形でフォローする方が現実的である。Blender Donut Tutorial — Blender Guru (2025) など外部の良質な教材を紹介URLとして提示する形で十分機能する。


5. リスクと留意点

  • AI動画生成サービスは利用規約・著作権ポリシー・学習データ問題が流動的である。授業で使うサービスは毎年見直す前提とする
  • Comfy CloudやRunwayは料金が変動する。大学の予算で学生人数分のアカウントを賄えるか、事前確認が必要である
  • 学生によっては「全部AIで一発で出る」と誤解する。Price氏の「Labor vs. judgment」のフレームを第1回で明示し、AIが出した一発目を起点に判断を積み重ねる練習として再定義することが重要である
  • 30回・90時間という総量は、作品制作中心の演習には十分だが、技術解説に時間を取られすぎると制作時間が圧迫される。技術解説の多くは事前動画・自習教材に分離し、対面時間は「制作と判断」に集中させる設計が望ましい
  • ※ 5〜10年スパンで考えるなら、リアルタイム生成・対話的生成・3Dガウシアン/NeRF系の取り込みが視野に入る。授業骨格は「特定ツール非依存」で組んでおくと改訂負担が小さい

6. まとめ

Price氏の主張を一言で要約すると「3DCGはモデリング技能としては縮小するが、AIの制御装置として残る。残るのは判断・物語・世界観である」となる。これを踏まえると、原案の「実写+AI生成中心」という方向は正しいが、(1) ツール名で比率を決めないこと、(2) 3DCGを完全にゼロにせず後期に3回だけ「AIを制御するための3D」として残すこと、(3) 30回の授業全体を「判断力の演習」として設計し直すこと、の3点が今後5〜10年の変化への耐性を高める方向性と考えられる。

180分×15回×2学期という枠は、技術習得と作品制作を両立させるのに十分な総量である。前期で素材作りの一次パイプラインを一通り経験させ、後期でキャラクター一貫性・3D制御・作品化に踏み込む二段構えとし、最終週は必ず講評に充てる構成を骨格とする。